サイエンス理論

このコーナーでは、X(Twitter) で連載していたサイエンス系のネタを、順を追って読みやすく再掲載しています
「常識と真逆の世界」の話になりますが、「自然農」や「自然栽培」、「無肥料」そして「不耕起」についての理解を深める意味において、また時として「ファンタジー的」な表現で語られがちな(そしてその結果として「再現性が低い」という現状がある)そのような概念に欠落していた「サイエンス的」な視点を与えてくれるという意味において、非常に参考になる内容になっていると思います
お時間がある方はぜひ読み進めてみてください
ここで紹介しているサイエンス理論は主に、最先端の土壌微生物学者 Dr. Christine Jones の4回連続セミナー(全6時間)からの抜粋、要約になります
断片的な短文まとめになってしまいますが、ぜひご自身で「全体像」を描いてみてください
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とある農夫が、「12種混合カバークロップ種子」を買ったそうな
「どんな植物かな?」と品種別にポットに蒔いてみる、それと12種混合のポットも
「単体」のポットが「窒素不足」を示す一方で、「混合」のポットは問題なく元気に育ったというハナシ...
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植物の根っこと「微生物との共生関係」による窒素固定 (マメ科に限らない) は、植物の種類(科)が「多様」であることによって、よりダイナミックに行われる
最低でも 4種類、理想的には 6種類以上の「科」の植物が近接していることが望ましい
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植物の種類(科)によって、「共生関係」を営む微生物の種類が全くちがう
植物の種類が「多様」であればあるほど、微生物の種類も多様になる
微生物の種類が多様であればあるほど、土が「本来の機能」を取り戻す、つまり、「生産能力」が高まる
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同じ種類(科)の植物が近接している場合、それは「競合」として認識されるが、
別の種類(科)の植物が近接している場合、それは「協力」すべき相手として認識される
これを 認識 / 判断 / 管理 しているのは「微生物」である、「植物」ではない
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「窒素固定はマメ科だけ」という思い込みから我々は自由になる必要がある
実際にはおそらく全ての植物が、「窒素固定バクテリア」(Archaea)と、「本来であれば」共生している
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「窒素固定バクテリア」には何百もの種類が存在するが、その99.9%は「培養不可能」である
つまり研究が非常に困難であり、かつ「ビジネス的な旨味がない」ため、長年に渡ってその存在自体が無視されて続けてきた
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近代的農業の基盤となった「研究」の大部分は、「窒素固定バクテリア」が機能できない「死んだ土」を用いて行われてきた
これらの研究の「成果」は、「生きた土」の機能を前提として考えていく際、「何の参考にもならない」
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「窒素固定バクテリア」は単体では機能しない、彼らは「社会的」であり、他者の存在が不可欠である
微生物の層における「多様性」が最重要と言える、そのためには植物の種類(科)が「多様」でなければならない
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植物と微生物との「共生関係」において、植物は光合成により生成した糖を「根分泌物」として微生物に提供し、微生物は植物の生育に必要な栄養素を提供する
これは善意によるボランティアではなく、お互いにとってメリットのある「契約」である
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微生物と「共生関係」にある植物は、虫や病気、干ばつや浸水など、さまざまな環境ストレスに対しての耐性が強くなる
これは主に、自らの「宿主」である植物を、微生物が「守ろう」とするためである
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「単一栽培」の柑橘生産者に壊滅的な被害を与え続けている「カンキツグリーニング病」
人類はいまだに「科学的」な解決策を見出せていないが…
Ed James 氏は「下草を多様にする」だけで、「感染したまま」良質な果実を生産できることを証明した
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協力関係にある植物の根っこは、「菌根菌」を中心とした「菌糸のネットワーク」で繋がっているが、これを通じて、
・水
・栄養素
・情報
・遺伝子的素材
・etc.
といったモノがやり取りされている
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植物の種類(科)が多様であればあるほど、コミュニティとしての協力関係はより強固なものになり、それぞれの「得意」を共有できるようになる
例えば、「乾燥に強い」という性質を「輸入」したりできるが、これを指揮するのはもちろん微生物である
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植物をとりまく微生物のコミュニティは、「全体の利益」が最大になるよう運営されている
彼らにとっての「利益」とは主に、植物が光合成によって作り出す「糖」などの「根分泌物」、つまりコミュニティ全体が機能するための「エネルギー源」である
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落葉紅葉樹の「大きな木」の下に、常緑の「小さな木」があったとする
夏の間「小さな木」は日陰になるが、微生物たちは「大きな木」が光合成したエネルギーを「小さな木」に送る
何故か?
冬の間、光合成し続ける「宿主」を確保するためである
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植物と微生物は、「ケミカル信号物質」によってコミュニケーションをとっている
例えば、刈られた植物は「緊急要請」の信号を出す、窒素固定バクテリアはそれを受け、フル活動で空気中の窒素を固定、供給する
自らの「宿主」を再生させるために
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〜 ちょっと休憩 〜
「自然農」や「不耕起」は、世界に誇る日本のスタイルだと思ってたんだけど、全然そんなことないね
海外のほうがよっぽど進んでる、サイエンス的なアプローチで、「大規模農業」の「経営改善」が実際に機能してる
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植物は「共生関係」にある有益な微生物を「植物の内部」に取り込み、「種子」の内部に格納し、次世代へと受け継ぐ
タネとり母本(親株)が微生物との共生関係を経験しているかどうか、これは次世代の「共生能力」に大きく影響する
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植物は「本来であれば」微生物との「共生関係」によって健全に生育できるが、近代的農業においてこれはほとんど機能していない
主な原因は以下
① 種子消毒
② 無機窒素肥料
③ 水溶性リン酸肥料
④ 単一栽培
⑤ 土を裸にしている
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①「種子消毒」
植物は「本来であれば」発芽と同時に微生物との共生を開始、「根分泌物」で彼らを養い始めるが、種子消毒はこれをスタート時点から阻害してしまう
自家採種のタネが理想、少なくとも「種子消毒なし」のタネを使用するのが望ましい
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②「無機窒素」
「硝酸態窒素」や「アンモニア態窒素」のような無機窒素が大量にあると、植物はそれに甘んじて微生物との共生関係を「放棄」してしまう
窒素肥料では「アミノ酸」の葉面散布が良く、コンポストの使用も微生物の活性化に有効である
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「混植カバークロップ」の品目として、できるだけ「マメ科」を入れないほうが良い
「マメ科」による窒素固定は、化学肥料(無機窒素)の投与とほぼ同じである
つまり、他の植物における「窒素固定バクテリア」との共生を妨げることになるからである
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③「水溶性リン酸」
リン酸そのものは植物にとって「毒」ではないが、これがあることによって「リン酸可溶化バクテリア」との共生が「放棄」され、これと連動して「窒素固定バクテリア」も機能しなくなる
「投与」よりも、すでにある資源の「可溶化」が重要である
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使用された「リン酸肥料」のうち、植物に吸収されるのは10〜15%程度で、残りの85〜90%は半永久的にその場に「貯蔵」される
この「貯蔵物」は、「リン酸可溶化バクテリア」などの微生物と植物との「共生関係」によってのみ利用可能な「資源」となる
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④「単一栽培」
作業性の面では効率が良いが、微生物と「共生」して味方につけるという意味では「最も効率が悪い」
「家庭菜園」や「少量多品目」の場合においても、4種類(科)以上の植物が近接しているように配置するのが望ましい
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⑤「土を裸にしている」
植物と「共生」する微生物は、常に「生きた植物の根」を必要としている
「光合成を最大化」するため、土を「裸」にする期間はできるだけ短く、「株間」や「列間」にもなんらかの植物が常に生えていることが望ましい
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現状における農地は極限にまで「機能しない」状態になっており、多くの人々は「機能する土」を見たことがない
しかし、植物の多様性、微生物の多様性に焦点を当てて取り組むことにより、早い段階(3年程度)でその機能を回復することは可能である
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従来の Soil Food Web モデルでは、植物 / 微生物 / 虫 / 小動物 等による「食物連鎖」が、窒素やリン酸、その他ミネラル類の「供給サイクル / 土作り」であると考えられてきた
しかし後の研究により、これが「メインではない」ことが分かっている
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空気中の濃度
・窒素 78%
・酸素 21%
・二酸化炭素 0.04%
このうち最も「限られた資源」である「炭素」を、いかにして 植物・微生物・土壌 のサイクルに「取り戻していく」か…
これこそが焦点を当てるべきポイントである
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地上からの有機物(植物の残骸)は、微生物の活性化という意味では非常に重要であるが、分解のプロセスにおいてほぼその全てが「二酸化炭素」として大気中に放出される
つまり、土壌中に「炭素」を固定するという意味では、「ほとんど貢献しない」
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空気中にある「二酸化炭素」を土壌中の「炭素」として固定する働きは、
地上からの「有機物」(植物の残骸)よりも、植物と微生物との「共生関係」によって「圧倒的に」効率よく行われる
葉《光合成》→根→微生物《固定》
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空気中の「炭素」を土壌中に固定する働きは、植物と微生物との「共生関係」によって行われる
化学肥料で育った植物にはこれがなく、粗大有機物の生産量が大きかったとしても、「土壌の改善」という観点からは「ほとんど何の仕事もしていない」
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「家庭菜園」は「混植」を最も簡単に実現できるフィールドである
それぞれの作物を別々に植えるのではなく「ごちゃまぜ」に植えていけば良い
これだけで「光合成能力」は高まり、「土壌の改善」は進み、微生物との共生関係はより強固なものになる
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土の「機能」がまだ回復していない場合、「混植」で植物の数が増える→「蒸散」が増えることで乾燥しやすくなる可能性はあるが、
「混植」の効果として、根分泌物と微生物の活動で「保水能力」が高まることにより、水バランスの「損益分岐点」は間も無くプラスに転ずることになる
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「機能していない」土壌にも、たくさんの微生物が「休眠状態」として存在している
これらの微生物を「目覚めさせる」方法のひとつが、「バイオスティミュラント」を「種子」に使用することである
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「バイオスティミュラント」は市販品を購入しても良いが、自家製や低コストのものでも充分に効果が見込める
例 )
・ミミズのウンチ
・ミミコンに溜まる液体
・嫌気性ボカシ
・自家製コンポスト
・牛乳
注釈:ここで挙げている「牛乳」については個人的にはいまいちピンとこないのだけど、Dr. Christine Jones のいくつかのセミナー動画の中で、「バイオスティミュラントとして効果がある」とはっきり言及されています
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「バイオスティミュラント」には微生物が活動した「痕跡」としての「ケミカル信号物質」が大量に含まれており、これに植物が反応することで効果が生まれる
「微生物」の投入が狙いではない、彼らは先住の微生物によって数分のうちに「消費」される
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「嫌気性は悪である」と思われている節があるが、嫌気性発酵のほうが圧倒的に多く「ケミカル信号物質」が生成され、「バイオスティミュラント」としての効果が高い
ちなみにミミズの腸内は「嫌気性」であり、この意味でも非常に優秀であると言える
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「バイオスティミュラント」は微量でも充分に効果があり、むしろ濃すぎると逆効果になる
重要なのは窒素とリン酸が「ほとんどない」状態で使用すること
特に発芽時に「怠けさせない」こと、共生の必要に駆られる環境を作ることがポイントである
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「バイオスティミュラント」の狙いはあくまでも「施肥」ではなく「きっかけ作り」であるが、これが機能する仕組みとしては、以下のようなステップを踏むことになる
① 植物の「勘違い」
② 微生物の「目覚め」
③ ポジティブな連鎖反応
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① 植物の「勘違い」
播種時に施された「バイオスティミュラント」に含まれる「ケミカル信号物質」を外皮から感知した種子は、「ここは微生物豊富な土地なんだな」と勘違いする(実際にはほとんどいないことが多いが、それは問題ではない)
発根と同時に根分泌物を出し、微生物に語りかけ誘う
「私はここにいます、さあ共生関係を始めましょう!」
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② 微生物の「目覚め」
数十年に渡って休眠状態であった微生物たちは、植物からの語りかけに反応する
「ワシらと共生しようって気がある植物がおるんか、珍しいな… 」
「目覚めた」微生物は植物の根に取りつき、自らの宿主を「育て始める」
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③ ポジティブな連鎖反応
植物が微生物を「養い」、微生物が植物を「育てる」
この過程でさらに「ケミカル信号物質」が生成され、「共生関係」はより活発に
こうして当初は「勘違い」であったはずの「微生物豊富な土壌」が、現実のものとなる...
【あとがき】
いかがだったでしょうか...?
目からウロコな内容が多かったのではないでしょうか?
当店の種取り圃場では、このようなサイエンス理論に基づいた栽培方法を確立すべく、試行錯誤しながら日々実践しているところで、その様子や考えたことなども X(Twitter) にて投稿しています
また、「トマたね科学」のハッシュタグでこれに付随した記事を投稿することもありますので、ご興味のある方は是非チェックしてみてください